神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)11号 判決 1995年6月19日
原告
飛田雄一(X1)
同
草地賢一(X2)
同
竹本睦子(X3)
同
藤原一二三(X4)
同
寺内真子(X5)
右原告ら訴訟代理人弁護士
原田紀敏
同
林晃史
同
菅充行
同
小山千蔭
右林晃史訴訟復代理人弁護士
梁英子
被告
国(Y)
右代表者法務大臣
前田勲男
右指定代理人
川口泰司
同
村上武志
同
石田赳
同
廣瀬彰四郎
同
福山香織
同
久保修一
同
内藤浩文
同
伊沢功次
同
土肥克己
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、神戸市に対し、金一二一万四七一五円及びこれに対する平成四年三月一七日(訴状送達の日の翌日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 本案前の答弁
主文同旨
三 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 仮執行免脱宣言
第二 事案の概要
一 本件は、神戸市の住民である原告らが、日本に滞在する外国人にも生活保護法が直接適用又は準用されるべきであると主張して、被告に対し、神戸市に代位して、同市が医療扶助決定をして支出した外国人に係る保護費のうちの国庫負担金相当分を同市に支払うよう求める住民訴訟に関する事案である。
なお、原告らの請求は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、主位的には、右国庫負担金相当分を直接代位請求とするものであり、予備的に、神戸市が被告に対して右負担金相当分を請求しないことにより被告に不当利得が発生しているとしてその返還請求権を代位行使し、また、厚生省の違法な措置により神戸市が損害を被ったとして不法行為による損害賠償請求権を代位行使するものである。
二 争いのない事実
1 原告らは、いずれも神戸市の住民である。
2 スリランカ人デビッド・ゴドウィン・クリストファ(以下「クリストファ」という。)は、平成元年二月ころ来日し、留学生の在留資格で神戸市灘区に居住していたが、平成二年三月二一日、くも膜下出血のため、神戸海星病院を経て神戸大学医学部付属病院に入院し、同年四月一三日、退院した。
3 右両病院におけるクリストファの医療費は合計金一六一万九六二〇円であったが、クリストファには支払能力がなかったので、同人の義兄であるリズビィ・ガウスは、灘福祉事務所に対し、予算措置による生活保護法に準じた取り扱いの職権発動を促す申立てをした。
そして、右申立てに対し、灘福祉事務所所長は、同年四月二六日、保護開始日を平成二年三月二一日、保護廃止日を同年四月一四日とする医療扶助の決定をした。
4 しかし、厚生省は、生活保護法を準用する外国人の範囲を、出入国管理及び難民認定法別表第二に定める外国人及び日韓協定による永住者、平和条約関連国籍離脱者等に限られるとの見解の下に、神戸市からの解釈上の疑義照会に対し、クリストファに対する医療扶助の決定に係る金員は国庫負担金の対象にならない旨の見解を示した。
5 その後、神戸市長は、被告に対し、クリストファに対する医療扶助の保護費のうち四分の三にあたる国庫負担相当分金一二一万四七一五円(以下「本件国庫負担金」という。)の請求をしていない。
6 原告らは、神戸市長が本件国庫負担金を請求しないことが、地方自治法二四二条一項にいう「違法若しくは不当に」「公金の徴収若しくは財産の管理を怠る事実」にあたるとして、平成三年一一月二七日、神戸市監査委員に対し住民監査請求をした。
これに対し、神戸市監査委員は、平成四年一月二〇日、原告らの右住民監査請求を棄却した。
三 争点
本件の主要な争点は、次のとおりである。
1 本案前の争点
(一) 地方自治法二四二条の二第一項四号により、原告らが本件国庫負担金の請求権を代位行使することが許されるか(争点1)。
(二) 原告らの主張する不当利得返還請求及び不法行為による損害賠償請求権の代位行使が、同法二四二条の二第二項一号所定の出訴期間を遵守するものであるか(争点2)。
2 本案の争点
(一) 生活保護法の適用対象は日本国民だけに限られ、さらに、同法を準用する外国人の範囲は、出入国管理及び難民認定法の別表第二に定める外国人及び日韓協定による永住者、平和条約関連国籍離脱者等に限られるとの見解の下に、本件国庫負担金の支払を神戸市に対してしないとする被告の態度は、外国人の生存権を侵害する違法な行政措置であるか否か(争点3)。
(二) 本件国庫負担金の請求権は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律六条に定める厚生大臣の交付決定があって初めて発生するものであるか否か(争点4)。
(三) 神戸市が、被告に対して、本件国庫負担金の請求権、不当利得返還請求権、不法行為による損害賠償請求権を有するか(争点5)。
四 争点についての主張
右各争点に対する当事者の主張は、別紙のとおりである。
第三 争点に対する判断
一 争点1(住民訴訟の対象)
【要旨一】地方自治法二四二条の二のような訴訟の制度を設けるか否かは立法政策の問題であって(最高裁昭和二八年(オ)第四四九号同三四年七月二〇日大法廷判決・民集一三巻八号一一〇三頁参照)、同条の二第一項四号は、立法政策上、同号列挙の請求のみが住民訴訟の対象となる旨を定めたものと解される。
そして、本件訴えのうち、本件国庫負担金を直接代位請求する部分(主位的請求)は、同号に掲げる訴訟の対象に該当しないことが明らかであるから、不適法である。
二 争点2(出訴期間)
1 【要旨二】地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条三項、四一条二項、一九条一項に基づく訴えの追加的併合は、本来の請求が不適法で却下を免れない場合には、許されないと解するのが相当である。すなわち、本来の請求が不適法な場合には、速やかにその訴えは却下されるべきであって、後になされた訴えの追加的併合により右瑕疵が治癒されるとはいえないからである。
2 したがって、本来の請求が不適法な場合、訴えの追加的併合の申立てがされたときには、追加された請求は新たな訴えの提起と解するほかはない。そして、追加された請求について出訴期間の定めがあるときは、その期間内に右追加の申立がされなければならない。
「変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき、又は両者の間に存する関係から、変更後への新請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるとき」は、出訴期間を徒過した変更後の新請求も不適法とならない旨の法理(最高裁昭和五四年(行ツ)第一二九号同五八年九月八日第一小法廷判決・裁判集民事一三九号四五七頁参照)は、変更前の請求が適法な場合に関するものであって、本件のように、本来の請求が不適法な場合には適用されない。
3 本件においては、原告らが不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権を代位請求する旨の訴訟行為をしたのは、平成四年九月二日提出の準備書面においてである。
また、本件訴訟に先立つ監査請求が同年一月二〇日に棄却され、右監査の結果がそのころ原告らに通知されたことは、当事者間に争いがない(弁論の全趣旨によると、遅くとも、本件訴訟が提起された平成四年二月一四日までには、右監査の結果が原告らに通知されたことを認めることができる。)
したがって、本件訴えのうち、不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権を代位請求する部分(予備的請求)は、地方自治法二四二条の二第二項一号所定の出訴期間(監査の結果の通知があった日から三〇日以内)を徒過した後のものであって、不適法である。
第四 結論
憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである(最高裁昭和五〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁)。
ただし、【要旨三】憲法二五条一項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではなく、具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によって、はじめて与えられているというべきである(最高裁昭和三九年(行ツ)第一四号同四二年五月二四日大法廷判決・民集二一巻五号一〇四三頁参照)。そして、生活保護法一条及び二条は、同法による保護を受けることができる者を「国民」に限っているから、外国人が同法によって具体的権利を享有していると解することはできない。
しかし、これは、現行法上、外国人が同法の定める具体的な権利を享有しているとまでは解することができないというにとどまり、憲法並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約等の趣旨に鑑み、さらに、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が人の生存に直接関係することをも併せ考えると、法律をもって、外国人の生存権に関する何らかの措置を講ずることが望ましい。特に、重大な傷病への緊急治療は、生命そのものに対する救済措置であるから、国籍や在留資格にかかわらず、このことが強く妥当する。
ただし、右のような措置を講ずるか否か、講ずるとした場合に、当該制度を社会福祉政策全般の中でどのように位置づけるか、右位置づけに関連して、どのような要件の下にどのような制度を準備するか、その費用を国及び地方公共団体又は本人あるいはその他の者がいかなる割合で負担するか等の点は、専ら国の立法政策にかかわる事柄であり、直ちに司法審査の対象となるものではない。
そして、本件訴えは、争点1及び2に対する判断で判示したように、いずれも不適法なものとして却下を免れないから、争点3ないし5については判断するまでもない。
よって、本件訴えをいずれも却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 永吉孝夫 伊東浩子)
別紙 争点に対する当事者の主張
一 争点1(住民訴訟の対象)
1 原告らの主張
地方自治制度は、立憲民主制を維持していく上で不可欠な機能を果たし、地方公共団体が自律権を有する(団体自治)とともに、その支配意思の形成に住民が参画すること(住民自治)が当然の帰結であって、地方自治法二四二条の二第一項四号の解釈もこの観点からなされるべきである。
そして、同条項は、地方公共団体の自律権を実質的に保障するためにその財政的基盤を安定させることを目的として、また、住民自治の要請から、当該地方公共団体の住民に当該自治体に代位して請求する権能を与えたものであるから、同号の列挙が限定的なものと解する余地はなく、例示的なものと解すべきである。
2 被告の主張
地方自治法二四二条の二第一項四号は、住民訴訟の対象となる請求を限定的に列挙しており、原告らの国庫負担金請求は、右に掲げる訴訟の対象に該当しないから、不適法である。
二 争点2(出訴期間)
1 前提となる事実関係((一)は当事者間に争いがなく、(二)ないし(四)は当裁判所に顕著である。)
(一) 前記争いのない事実に記載のとおり、原告らのした住民監査請求に対し、神戸市監査委員は、平成四年一月二〇日、右請求を棄却した、そして、右監査の結果は、そのころ、原告らに通知された。
(二) 本件訴訟は、平成四年二月一四日に提起された。
そして、訴状には、神戸市は被告に対して金一二一万四七一五円の国庫負担金請求権を有するから、原告らは、被告に対し、神戸市に代位して、請求の趣旨記載の判決を求める旨の記載があり、右国庫負担金請求権が訴訟物とされている。
(三) これに対し、被告は、答弁書において、右国庫負担金請求権についての被告に対する代位請求は、地方自治法二四二条の二第一項四号が住民訴訟の対象として掲げる損害賠償請求、不当利得返還請求等に該当しないので、不適法であるから、却下されるべきである旨の本案前の答弁をした。
(四) 原告らは、平成四年九月二日提出の準備書面において、被告の右主張を争うとともに、仮に国庫負担金請求権が地方自治法二四二条の二第一項四号による代位請求の対象とならないとしても、神戸市は被告に対し不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権を有するとして、原告らはこれらを代位請求する旨主張した。
2 被告の主張
(一) 原告らの不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権の代位請求は、いずれも地方自治法二四二条の二第二項一号所定の出訴期間を経過した後のものであって、不適法である。
すなわち、訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないが、これにつき出訴期間の定めがあるものは、その期間内に右変更の申立がなされなければならない。
(二) 変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき、又は両者の間に存する関係から、変更後への新請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときは、出訴期間を徒過した変更後の新請求も不適法とならないが、本件では、このような特段の事情は認められない。
(三) 地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条三項、四一条二項、一九条一項に基づく訴えの追加的併合は、本来の請求が不適法で却下を免れない場合には、許されないものというべきである。
3 原告らの主張
(一) 原告らの予備的請求は新たな訴えの提起ではなく、単なる攻撃防御方法の主張にすぎないから、訴えの変更にはあたらない。
すなわち、原告らの請求は、いずれも地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求訴訟であるから訴訟物が同一であり、さらに、いずれも請求の趣旨及び請求原因事実も同一である。
(二) 仮に、原告らの予備的請求が訴えの追加的変更にあたるとしても、右請求は訴状が提出された時に提起されたものと同視することができ、出訴期間の遵守において欠けるところがない。
すなわち、主位的請求である国庫負担金請求権の代位請求と予備的請求である不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権の代位請求とは、事実上の争点が同一である。また、原告らは、被告に対し、訴えの提起当初から国庫負担金相当額の金員の請求をしており、神戸市に代位して右金員を請求する意思は明確であったから、出訴期間が遵守されたとみなしても、何ら被告において不利益はない。
三 争点3(外国人と憲法上の生存権・生活保護法上の医療扶助請求権)
1 原告らの主張
(一) 原告らが本件訴訟で主に問わんとするのは、争点3である。
(二) 外国人と生存権
わが国の憲法上、外国人にも生存権は保障されていると解すべきである。
とりわけ、本件訴訟で問題となっている医療扶助請求権、特にその中でも緊急医療権は、人間の生命、生存に直結する権利であり、その人が在留する国において保障される基本的人権として把握されるべきである。
(三) 外国人と生活保護法
外国人にも生活保護法に基づく医療扶助を求める権利が認められる。
すなわち、右の権利は、人の生命、生存に直結する性質を有しており、憲法一四条、二五条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約二条二項、九条、一二条、市民的及び政治的権利に関する国際規約二六条によって、国籍や在留資格にかかわらず、広く保障されるべきである。
(四) 厚生省による口頭指示の不当性
生活保護法に関する昭和二九年五月八日通知(社発三八二号厚生省社会局長通知)は、外国人の在留資格の有無、種類を問わず、外国人に対する同法の適用を認めていた。そして、同通知以後は、外国人の在留資格の有無、種類を問わず、外国人に対しても生活保護法が準用されていた。
ところが、平成二年一〇月二五日開催の生活保護指導監督職員ブロック会議(近畿・中国ブロック)において、厚生省は、生活保護法を準用する外国人として、当時の出入国管理及び難民認定法別表第二に掲げる在留資格を有する外国人、いわゆる日韓協定による永住者、平和条約関連国籍離脱者等に限る旨口頭で指示を与えた。
右指示は、それまでの生活保護法の準用の実態を無視しており、しかも、不利益変更禁止の原則に抵触しており、無効なものである。
2 被告の主張
外国人の生活保護に関しては、憲法及び法律により保障されたものではない。ただ、国は、一方的な行政措置として、出入国管理及び難民認定法別表第二に掲げる在留資格を有する外国人、いわゆる日韓協定による永住者、平和条約関連国籍離脱者等に対して生活保護を実施しているにすぎない。
なお、原告ら主張の通達は、外国人について生活保護に準じた取扱いをする際の手続を定めたものにすぎないのであって、外国人について在留資格等を問わず一律に生活保護に準じた取扱いをすることができる旨を示したものではない。また、原告ら主張の口頭指示は、従来からの右解釈を一般的かつ確認的に示したにすぎない。
四 争点4(国庫負担金請求権の発生要件)
1 原告らの主張
(一) 国庫負担金は、国が地方公共団体に対して、その責任において負担すべき義務費である。これは、各種補助金と異なり国庫負担金の支払につき国に裁量の余地がなく、これを定めた地方財政法及び各法律並びにそれらに基づく政令によって、負担区分が一義的に定められていることからも明らかである。
したがって、国庫負担金請求権は、これを定める法律及び政令に基づいて当然に発生するものである。
これに対し、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律は、補助金等の支払手続法にすぎず、補助金等についての不正申請・不正使用を防止するために各種の規制や罰則を設けたもので、国庫負担金支払請求権の発生要件に変更を加えるものではない。
(二) 仮に、国庫負担金については同法六条による各省各庁の長による補助金等の交付の決定がなければ発生しないのが原則であるとしても、本件のように地方公共団体が国庫負担金を請求しないような特段の事情がある場合には、例外的に、右決定がなくても国庫負担金請求権が発生すると解すべきである。
2 被告の主張
国庫負担金請求権は、同法六条による各省各庁の長による補助金等の交付の決定がなければ発生しない。
五 争点5(神戸市の国に対する請求権)
1 原告らの主張
(一) 国庫負担金請求権
本件においては、灘福祉事務所所長がクリストファの医療費について医療扶助の決定をした平成二年四月二六日に、神戸市は被告に対して本件国庫負担金の請求権を取得した。
(二) 不当利得返還請求権
神戸市が被告に対して本件国庫負担金の請求をしなかったのは、違法・不当な厚生省による前記口頭指示及び被告があらかじめした支払拒否のためである。
これにより、被告は、本来負担すべきであったクリストファの医療費について国庫負担金相当額の債務の負担を免れ、他方、神戸市は、右相当額を損失した。
(三) 不法行為による損害賠償請求権
厚生省による前記口頭指示及び本件国庫負担金について被告があらかじめした支払拒否は、違法なものである。
そして、神戸市は、被告の右違法行為により、右国庫負担金相当額の損害を被った。
2 被告の主張
争点4に対する主張で述べたように、国庫負担金請求権は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律六条による各省各庁の長による補助金等の交付の決定がなければ発生しない。
本件においては、厚生大臣による補助金等の交付の決定が未だ存在しないから、神戸市には本件国庫負担金の請求権は発生していない。
また、本件国庫負担金の請求権が発生していないから、神戸市には、右同額の損失及び損害も発生していない。